2012年2月17日金曜日

『HALF LIFE―チェルノブイリ:死の森か、エデンの園か』


今、日本語電子書籍のフォーマットとして定着しそうなEPUB3.0の勉強中で、それを閲覧できるということで、会社のiPadと自分のAndroid端末に、紀伊國屋書店の電子書籍アプリである「Kinoppy」をインストールしてみた。

このKinoppyは紀伊國屋書店が販売する電子書籍をダウンロード購入できるブラウザにもなっていて、折角だからと無料の電子書籍をいくつかダウンロードしてみた。その中にあったのが本エントリーで紹介する『HALF LIFE―チェルノブイリ:死の森か、エデンの園か』である。

当初、電子書籍閲覧をためしてみるだけのつもりだったが、思いのほか興味深く、思わず最後まで読み込んでしまった。内容は以下WIREDの紹介文とおりである。

『メルトダウンから25年。強制移住や立ち入り制限によって無人となったチェルノブイリ周辺の地域は、現在野生動物の宝庫になりつつある。ある専門家は、放射線による悪影響は検知できていないと語る。一方で、放射能汚染は深刻な影響をもたらしていると語る学者もいる。モウコウマやイノシシ、オオカミなど稀少動物の楽園となったチェルノブイリは、畸形生物が生きる死の森なのか? それとも新しいエデンの園なのか?』(WIREDより引用、様々な電子書籍販売サービスから無料で購入できます)

2011年3月11日の震災によって起きた「福島第一原発事故」――現在、原発自体は安定しているものの、事故によってまき散らされた放射性物質は、原発周辺のみならず関東圏にも「低線量被ばくの人体への影響」という不安を人々にもたらし、まったく影響がないという意見から、ささやかな体調不良まで低線量被ばくの影響だとする声まで、様々な見解と議論が沸騰している最中である。

ただ原発事故由来の低線量汚染地域に住む人の体調が悪くなったとしても、それが実際に低線量被ばくによる影響であるのか、たんなる体調不良なのかを見極めるのは難しい。また、それらの症状が放射線を心配するあまりのストレスによって発症したものだとする意見もあって、ますます状況は複雑なものになっている。

それを見極めるひとつの指針となりうるのが、本書が扱っているチェルノブイリ原発事故によって放射能汚染された地域の野生動物の調査ではないだろうか。

野生動物はある程度放射線をさえぎる空間(建物など)にとどまることはないし、直立していないので人間よりも主要臓器が汚染された地上からの放射線にさらされることになるだろう。また汚染されたものを食べているわけだから内部被ばくも甚大。そして少なくと放射線不安によるストレスの影響は動物に無縁だろうから、低線量が動物に与える影響について、ある程度公正なデータを得ることができ、それは人体への影響について把握する有益なデータとなるのではないか。

私は読み始めてすぐに素人勘定で上記ように思い、そして本書に示された調査されたデータが楽観的な展望を得ることができる結果を期待した。

「チェルノブイリ・フォーラム――国連、WHO(世界保健機関)、IAEA(国際原子力機関)によって各国から集められた100人の専門家から鳴る委員会――の2006年度の調査報告が、立ち入り制限区域が野生動物の聖域と化しつつあるという考えを科学的に裏づけている」

そして冒頭近くて提示される上記のような見解を読んで喜んだのであるが、本書はそう単純な解決を提示してくれなかった。上記のような見解が楽観的すぎるという詳細な研究調査の結果が提示され、また、その研究にも異論があることが語られ…――またしても、なんとも煮え切らない状況を押しつけられることになるからだ。

しかし、それが逆にこの件についての強い関心を喚起させることになった。週末には本書で知った関連書籍であるメアリー・マイシオの『チェルノブイリの森―事故後20年の自然誌』が届くことになっていて、またネットでこの件を題材としたNHKBS放送のドキュメンタリー番組をみつけたので見てみるつもりにもなった。

本書は本件に関する導入として最適だろう。現段階で胸に芽生えている考えのひとつは、放射線による生物への影響が、ここまでなら影響がなく、ここからは影響があるというような単純なものでは無いのではないかということだ。その点を念頭に置いて今後いろいろ調べてみるつもりです。

【NHKBS放送『被曝の森はいま』動画】 1/5 2/5 3/5 4/5 5/5

【上記番組をキャプチャ画像と文字おこしで紹介したブログ】






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